2010年設立以来、当機構は神経発達症(旧称、発達障害)の方々への支援・介入の基盤となる研究の推進を使命として歩んでまいりました。研究領域は、精神生理学、脳科学、心理学、疫学など多岐に及び、保育、教育、医療、成人の精神保健、司法精神医学、行政施策に重要な示唆を与える知見を報告してまいりました。このような成果が得られましたのも、我が国を代表する優れた研究者・治療者の先生方、最先端の医療機関、教育界・法曹界・行政関係者の皆様の暖かいご協力の賜物と深く感謝申し上げます。
我が国の神経発達症支援は広がりをみせつつありますが、支援のニーズが急速に高まる一方、適切な介入や対応を考える際のエビデンスとなる研究が乏しく、必要な情報が関係者にうまく行き渡っていないのが現状であります。当機構は、支援に役立つエビデンスを積み重ね、それを広く発信することで、神経発達症の支援を大きく前進させることを最大の目標としております。
当機構は今年で設立10周年を迎えました。教育・医療現場や研究機関との連携を密にし、研究・社会活動をますます充実させていきたいと考えております。スタッフならびに役員一同、一層の努力をしてまいりたいと存じますので、今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
理事長 十一 元三
令和2年5月1日
神経発達症の支援に関わる研究の実施および、関係機関の研究援助を行い、支援に携わる関係者・機関に向けて
研究成果を情報発信するとともに、研修事業等を通じた人材育成支援や社会啓発を行うことにより、
神経発達症をめぐる社会のあり方を向上させ、社会全体の利益に寄与することを目的とする。
支援の現場にしっかりと反映されるような研究を推進し、その成果をお届けするとともに、国内第一線の研究者・臨床家の協力による正しい学術的情報を、それを必要とする関係者・諸機関に提供することで、科学的、合理的な支援・対応・判断を可能にすることを目指しています。子育て、教育、医学、就労支援、司法的対応など広い領域でお役立て頂けるものと思います。
神経発達症とは、うつ病や総合失調症のようにある年齢から“症状”が現れる“病気”とは異なり、生まれつきの特徴的な脳発達による「性格・行動・能力面の特性」です。代表は「自閉スペクトラム症」、「注意欠如多動症」、「限局性学習症」の3つで、原因は愛情不足や育て方の問題ではありません。
しかし、養育・教育・生活環境が精神発達と社会適応に大きな影響を与えるため、周囲の理解と配慮が重要となります。また、2つ以上の精神発達症を併せ持つことが多いため、正確な診断にもとづく支援・介入が大変重要です。最近の調査からは神経発達症をもつ人の割合は1割以上に及ぶと推測されます。
幼少期から2つの特徴が現れます。第1は、行動や会話を通じて人々と情緒的に関わり、意思疎通することが苦手なこと、第2は、興味・関心が限られた事に集中しやすく、柔軟性を欠くこだわりを持ちやすいことです。苦手な状況でパニックを起こし易く、動作面の不器用さや感覚の過敏さがしばしば見られます。これらが相まって社会生活に困難を抱えやすくなりますが、優れた学術・芸術・技術的な才能につながることも稀ではありません。
「不注意」、「衝動性」、「多動」という幼児の発達段階の特徴が、児童期以降も顕著に続いている状態と考えられ、日常生活に様々な支障をもたらします。
学力の基礎技能(読み・書き・計算など)のどれかが、その人の全般的学力からみて不釣り合いに遅れている状態のうち、学習不足のせいではなく、“生まれつきの不得意さ(脳機能の問題)”による場合を指します。代表的なLDとして、「読字障害」、「書字表出障害」、「算数障害」があります。
多種多様な分野・対象の研究があるなか、発達症をもつ人の支援を考える上で、重要なヒントあるいはエビデンス(科学的根拠)となる研究を推進し、実践に役立てることを目指します。外部の第一線の研究者に協力頂きながら、発達症の人の特徴や二次障害の治療に関する研究を行っています。
医療、教育、行政、司法をはじめ各領域の支援関係者を対象に、発達症に関する研修行事や最新の情報提供を目指した講演会を行い、人材育成の促進を応援します。さらに、連携を推進する連絡会、一般市民向けの公開講演会や啓発冊子・資料配布などの情報発信を行います。