Tzishinsky et al. (2018). Sleep disturbances are associated with specific sensory sensitivities in children with autism. Molecular Autism, 9, 22. [Journal Page]コメント:ASD群では触覚と口唇感覚の過敏・鈍麻の症状が重い人ほど睡眠障害の症状が重く、特に触覚の過敏性が睡眠障害の重症度に関係しているという研究結果でした。感覚過敏が強いほうが睡眠障害の程度が重症であるというのは一般的な予測に沿う結果ですが、感覚鈍麻も睡眠障害の重症度と関係しているというところがとても興味深い点です。
背景と目的
近年のASD研究の大きな目的は、より均質な症状を共有し、その症状を標的とした介入から利益を得られるサブグループを同定することであると考えられています。ASDにあらわれる様々な症状領域間の関係性を理解することは、サブグループの特徴を明らかにするための重要なステップとなります。
感覚障害と睡眠障害はいずれも多くのASD者が持つ症状で、感覚障害が睡眠障害を引き起こす可能性が指摘されてきました。先行研究からは、感覚障害の程度が睡眠障害の程度を予測するという結果が得られていますが、用いられた尺度は総合的に感覚障害を評価するもので、それぞれの感覚モダリティとの関係は不明でした。
本研究では睡眠障害がどの感覚モダリティの過敏性もしくは鈍麻と関連があるのかを調べることを目的としました。このようなモダリティ特異性を同定することは、自閉症児の睡眠障害を引き起こす生理学的なメカニズムを明らかにするために重要であると考えられます。
方法
この研究には3-7歳の自閉症児69名、定型発達児62名とその両親が参加しています。感覚障害の評価には、感覚モダリティごと(聴覚、視覚、前庭覚、触覚、口腔感覚)の感覚過敏と感覚鈍麻および総合的な感覚障害の重さを評価するCaregiver Sensory Profile (CSP)が用いられました。睡眠障害の評価には、睡眠の長さ、睡眠時不安、睡眠時随伴症などと総合的な睡眠障害の重さを評価するChildren’s Sleep Habits Questionnaire (CSHQ)が用いられました。いずれの尺度も両親が評定を行っています。CSPは得点が低いほど、CSHQは得点が高いほど症状が重いということを示しています。主要な分析では、それぞれの尺度で総合得点と下位尺度について群間比較が行われ、ASD群と定型発達群のそれぞれで感覚障害と睡眠障害の関係性が調べられました。
結果
群間比較の結果、定型発達群と比較してASD群で全ての感覚モダリティの過敏と鈍麻の得点および総合得点が低くなっていました。この結果から、ASD児はすべての感覚モダリティでより強い感覚過敏と鈍麻の症状をもっていることが示唆されました。
睡眠障害については、総合得点および睡眠の長さ、睡眠時不安、睡眠時随伴症という限られた領域の得点がASD群で高くなっており、ASD児ではより睡眠障害がみられることが示唆されました。
感覚障害と睡眠障害の関係性については、ASD群では触覚と口唇感覚の過敏・鈍麻の症状が重い人ほど睡眠障害の症状が重く、特に触覚の過敏性が睡眠障害の重症度に関係しているという結果が得られました。定型発達群では触覚と前庭覚の過敏の症状が重い人ほど睡眠障害の症状が重くなっており、特に前庭覚の過敏性が睡眠障害の重症度に関係しているという結果でした。
考察
本研究は相関研究のためどちらが原因かは明らかではありませんが、触覚過敏が入眠や睡眠の持続を妨害することでASD児の睡眠障害が生じているかもしれないと著者らは述べています。今後は睡眠障害を引き起こす大きな要因とされている不安や覚醒度と触覚過敏との関係や背景にある生理学的な基盤について調べる必要があると指摘されています。また、視覚や聴覚でなく触覚のみで相関関係がみられたことから、ASDの感覚障害を研究する際にはモダリティごとの評価が必要であると考えられます。
限界
・両親による評価に頼っていること
・ASD群と定型発達群の間で性別とIQがマッチングされていないこと
・ASD群の一部の参加者がAutism Diagnosis Observation Schedule (ADOS)を用いたアセスメントを受けているわけではないこと