OPNDR特定非営利活動法人 神経発達症研究推進機構 OPNDR

お問い合わせ

原著論文紹介2:ASDを持つ人は顔の表情から感情を読み取ることが難しいーメタ分析を用いた研究

2020.7.11

投稿者:魚野 翔太

Uljarevic, M., & Hamilton, A. (2013). Recognition of emotions in autism: A formal meta-analysis. Journal of Autism and Developmental Disorders, 43, 1517-1526.コメント:笑顔を除いて他者の表情から感情を読み取ることが難しいということは直観に合致する結果ですが、定型発達者との差に年齢やIQの影響はみられませんでした。十分なサンプルサイズでの追試の必要性が指摘されていることからも、まだまだ研究が必要な領域だと思います。

 

背景と目的

顔面表情は表出者がある出来事や対象にどのような情動状態や意図を持っているかについての重要な情報源です。診断基準には明示されていませんが、自閉スペクトラム症(ASD)を持つ人は他者の表情から情動状態を理解することが難しいと考えられています。また、この問題が発達早期からみられるのであれば他者からの学習を通じた社会性の発達が阻害されることになり、情動理解の問題がASDの主要な問題であると指摘されてきました。しかしながら、多くの研究が行われてきたにもかかわらず、顔面表情からの情動理解の困難さがASD者に普遍的にみられるかについては結論が得られていません。

 

方法

本研究では、1)ASD者の基本情動(怒り、嫌悪、恐怖、幸福、悲しみ、驚き)を読み取る能力に障害があるか、2)障害があるとすればすべての情動にみられるかについて、メタ分析という手法を用いて調べました。メタ分析は、実験パラダイムや参加者のプロフィールが異なるこれまでの先行研究で得られた効果の大きさ(ここではASD群と統制群との成績差)を総合的に評価する方法です。選定基準を満たした48の研究(932人のASD者)が分析に用いられました。

 

結果と考察

第1に、情動の種類を通じた全体的な成績について検討したところ、ASDを持つ人のほうが顔面表情から情動を認識することが困難であるということが示されました。年齢やIQの違いは効果量には影響を与えていませんでした。また、呈示された顔面表情にふさわしい言語ラベルを選択する課題を用いるか、同じ情動を示す他の人物を選択する課題を用いるかも効果量には影響していませんでした。出版バイアス(差がみられなかった研究は報告されにくい)を考慮した場合でも、効果量は弱まるもののASDを持つ人のほうが情動を認識することが困難であるということが示されました。


第2、情動ごとの成績が利用可能な16の研究に基づいて、情動ごとの成績について検討したところ、幸福を除いた全ての情動でASDを持つ人のほうが顔面表情から情動を認識することが困難であることが示されました。また、恐怖表情における効果量は幸福表情よりも大きく、他の組み合わせでは差がありませんでした。

 

本研究の結果はASD者が幸福を除いた基本情動を顔面表情から読み取ることが難しいということを示しています。表情認識課題の内容による効果量の違いがみられなかったことからASD者における表情からの情動認識の問題は言語・知覚ではなく情動処理に起因することが考えられます。また、本研究の結果は特定情動の認識障害の結果として自閉症を説明する仮説に対する反証となります。

 

限界

著者らは、先行研究にはさまざまな問題点があることを指摘しています。代表的なものとして、研究ごとの参加者が少ないこと、統計的な有意差がみられなかった結果が報告されにくいことが挙げられます。これらはメタ分析に効果量の推定に影響することから、多数の参加者を対象とした研究を行い、すべての解析結果を報告することが推奨されています。

RERATED POSTSこんな記事も読まれています

PageTop